どの箱に何が入っているか、答えられますか― 出土品の所在管理が抱える現実 ―

どの箱に何が入っているか、答えられますか― 出土品の所在管理が抱える現実 ―

収蔵庫の中にある箱を一つ指して、「この中に何が入っているか」と聞かれたとき、すぐに答えられる担当者は、どれくらいいるだろうか

箱には遺跡名や番号が書かれている。台帳もある。けれども、その箱の中にどの時期の、どの種類の資料が、どの程度まとまって入っているのかまで、迷わず説明できるとは限らない。現場では、「見れば分かる」「探せば分かる」という状態にとどまっていることも少なくない。

しかし、文化財保管において「どこに何があるかが分かる」ということは、単なる便利さの問題ではない。照会に答えるためにも、活用につなげるためにも、整理を進めるためにも、その前提として所在が見えていなければならない。出土品の所在管理は、保管の末端業務ではなく、保管そのものの基盤である。

本稿では、出土品の所在管理に焦点を当て、その難しさの背景、現場で起きている実務上の問題、そして現実的な整備の進め方について考えたい。

bunkazai-hokan-container

収蔵庫にある箱の中身、即答できる担当者はどれくらいいるか

文化財の保管現場では、箱が整然と並んでいても、その状態がそのまま「管理できている」ことを意味するわけではない。棚に箱があり、番号が振られ、台帳も存在している。それでも、いざ特定の資料について尋ねられたときに、箱の位置と中身を即座に結び付けて説明できないことがある。

この差は小さく見えて、実務では大きい。時間をかければ分かる状態と、すぐに分かる状態は、似ているようでまったく異なる。前者では、問い合わせが入るたびに棚を探し、台帳を見返し、場合によっては箱を開けて確認することになる。後者では、確認作業は必要でも、少なくとも「どこから確認すればよいか」が最初から見えている。

所在管理の問題は、まさにこの差に表れる。
資料が「ある」ことと、資料の所在が「分かる」ことは同じではない。収蔵庫の中に存在していても、その所在と中身の関係が把握されていなければ、保管管理としては不十分である。

出土品の所在管理はなぜ難しいのか― 増え続ける資料と追いつかない記録 ―

出土品の所在管理が難しい理由は、現場の努力不足にあるのではない。そもそも、所在管理が崩れやすい構造を抱えているからである。

文化庁の「出土品の取扱いについて(報告)〈概要版〉」では、地方公共団体が保管する出土品は約459万箱に上り、さらに毎年約30万箱ずつ増加しているとされている。加えて、未整理の出土品は約4割に達し、登録・検索のシステム化は市町村で10%にとどまると整理されている。つまり、資料は増え続けているのに、それを把握し続けるための管理基盤は十分に整っていないのである。

ここで問題になるのは、箱の数が多いことだけではない。
資料は整理の過程でまとまり方が変わる。保管場所の見直しや施設の再配置が行われることもある。整理が進んだ箱、暫定的に置かれている箱、写真だけ先に撮影された箱など、管理の状態にも差がある。その都度、記録をきちんと更新できなければ、台帳と現況の間には少しずつズレが生まれていく。

文化庁の「埋蔵文化財保護行政の現状と課題」でも、埋蔵文化財保護行政において整理・保管体制の整備が重要な課題として扱われている。出土品の所在管理は、個別の自治体だけの悩みではなく、制度運用の現場全体に関わる問題として認識されている。

「台帳はある」と「所在が分かる」は別の問題である

所在管理について考えるとき、しばしば「台帳はあるのだから大丈夫ではないか」という発想が出てくる。
しかし実際には、台帳があることと、所在が分かることは別である。

たとえば、台帳上は箱番号が整理されていても、実際の棚配置が変わっていることがある。あるいは、箱の中身が整理の途中で組み替えられているのに、台帳が更新されていないこともある。写真データが存在していても、台帳と結び付いていなければ、必要なときに参照しにくい。結果として、「記録はあるが、探せる形になっていない」という状態が生まれる。

この問題は、記録の量の不足だけでは説明できない。
むしろ、情報が細かく存在していても、それが所在確認に役立つ形でつながっていなければ、実務では使いにくい。資料単位で詳細に書かれた台帳があっても、箱単位で何がまとまっているのかが見えなければ、収蔵庫の中で実際にどこを見ればよいのかが分からない。

所在管理に必要なのは、情報をたくさん持つことではない。
必要なときに、必要な箱へたどり着ける形で情報が整理されていることである。台帳があるだけでは足りない。台帳が、所在をたどるための道具として機能していなければならない。

所在が分からないと何が起きるか― 照会・活用・整理への影響 ―

所在が曖昧な状態は、見た目には静かな問題に見える。
しかし実際には、日常業務のさまざまな場面で確実に影響を及ぼす。

問い合わせ対応では、その影響が分かりやすい。研究者や市民、庁内の他部署から照会があったとき、対象資料の所在が見えていなければ、確認作業に時間がかかる。資料があるのか、どこにあるのか、すぐに判断できないまま返答が遅れることになる。

活用の場面でも同様である。展示や貸出、教材化、調査協力などは、資料の所在が押さえられていてはじめて動き出す。どこにあるか分からない資料は、実質的には活用できない資料に近い。保管されているはずなのに、使う段階でつまずくのである。

整理作業も、所在管理が不十分だと進みにくい。
どこまで整理が済んでいるのか、どの箱が未確認なのかが見えなければ、同じ確認作業を何度も繰り返すことになる。結果として、作業量のわりに前進しない状態が生まれやすい。

さらに、所在管理の不備は収蔵庫全体の把握も難しくする。
どの棚に何があり、どこに余力があり、どこが逼迫しているのかが見えなければ、保管スペースの再編や集約も判断しにくい。北九州市の埋蔵文化財センター移転事業資料でも、95,700箱の出土品を保管し、年間1,800箱の増加に対する対策が必要であること、複数の収蔵庫の収容率が高い水準にあることが示されている。所在が見えにくい状況では、こうした保管容量の問題にも的確に向き合いにくい。

まず箱単位で把握することから始める― 所在管理の現実的な進め方 ―

では、所在管理はどこから立て直せばよいのか。
ここで大事なのは、最初から完璧な記録を目指さないことである。

現場では、ときに「一点ごとに全部整備しなければならない」と考えてしまいがちである。もちろん、詳細な記録は理想として重要である。だが、所在管理の立て直しの初手として現実的なのは、まず箱単位で把握することである。

どの箱がどこにあり、その箱には何がどの程度まとまっているのか。遺跡名、調査年度、資料の大まかな種別、整理状況など、箱を単位として概要が見えるようになるだけでも、実務は大きく変わる。少なくとも、「どこから確認を始めればよいか」が見えるようになるからである。

ここで重要なのは、豪華な仕組みを急いで導入することではない。
更新できる形で記録を持つことである。棚番号や区画、箱番号、概要情報、写真の所在などが、無理なく更新される形でつながっていれば、それだけで管理の土台はかなり安定する。

文化庁の「博物館の収集方針に関する調査研究」でも、近年の博物館において収蔵スペース不足、いわゆる収蔵庫問題が課題になっていることが示され、収集と保管の前提を見直す必要性が論じられている。対象は博物館全体の議論であるが、「何をどのように持ち、どのように把握し続けるか」という視点は、出土品の所在管理を考えるうえでも示唆的である。

所在管理の整備を、一人で抱えなくていい

もっとも、所在管理の見直しは、言うほど簡単ではない。
既存の台帳を見直し、箱と棚を照合し、写真や記録の関係を整理し、更新ルールを整える。この作業には相当の時間と手間がかかる。

しかも、その多くは通常業務と並行して進めなければならない。照会対応もあれば、整理作業もあり、活用や庶務もある。そのなかで所在管理の立て直しまで一人で抱えるのは、現実には厳しいことが多い。

だからこそ、所在管理の整備は「担当者が頑張る話」だけで終わらせない方がよい。
現状を把握し、どこまで記録がつながっていて、どこが切れているのかを見極め、必要に応じて外部の支援も使いながら整えていく方が現実的である。

アーケストレージでは、箱単位での所在管理、台帳整備、写真との紐づけなど、現場で使える形での保管管理の整理を支援している。まずは現状の保管体制についての相談から受け付けているので、お気軽にお問い合わせいただきたい。

所在が分かることが、文化財保管の出発点である

文化財の保管管理では、台帳があること自体が目的ではない。
必要なのは、どの箱がどこにあり、何が入っていて、どこから確認を始めればよいかが分かる状態である。

所在が分からなければ、照会にも活用にも整理にも着手しにくい。
逆にいえば、箱単位でも所在が把握できていれば、保管管理はそこから立て直すことができる。

文化財保管の第一歩は、立派な仕組みを掲げることではない。
まず、所在が分かる状態をつくること。その基盤があってはじめて、その先の整理、活用、継承が現実のものとなる。

保管体制の整備を検討されている方へ

アーケストレージでは、保管量の現状把握・台帳整備・収納方法の見直しまで、文化財保管の管理体制を一体で支援しています。

「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも対応できます。まず現状をお聞かせください。

ヒアリングは無償で対応しています

参考資料

文化庁「埋蔵文化財保護行政の現状と課題
文化庁「出土品の取扱いについて(報告)
文化庁「出土品の取扱いについて(報告)〈概要版〉

関係記事

埋蔵文化財の保管とは?遺物・出土品の整理保管と保管の重要性
埋蔵文化財の保管スペース不足はなぜ起きるのか?出土品が増え続ける構造