文化財のデジタル管理とは何か ― 台帳・写真・所在を一体で管理するとはどういうことか ―

文化財のデジタル管理とは何か ― 台帳・写真・所在を一体で管理するとはどういうことか ―

文化財のデジタル化という言葉は、近年さまざまな場面で用いられるようになっている。台帳をExcelで管理する、写真をデータで保存する、クラウドサービスを導入する。こうした取り組みは、多くの自治体や関係機関で進められている。

しかし、ここで一度立ち止まって考えたい。それらは本当に「デジタル管理」と呼べる状態になっているだろうか。

文化庁の「埋蔵文化財保護行政の現状と課題」では、出土品の増加に伴い、整理・保管・情報管理体制の強化が継続的な課題として示されている。さらに、「出土品の取扱いについて(報告)〈概要版〉」では、地方公共団体が保管する出土品が約459万箱に上り、未整理資料が約4割を占め、登録・検索のシステム化が市町村では1割程度にとどまることが示されている。単にデータがあるだけでは、管理の課題は解消しないのである。

つまり、データが存在していることと、それが管理として機能していることは別の問題である。本稿では、「文化財のデジタル管理」とは何かを改めて整理し、現場で実際に使える管理のあり方を考えたい。

デジタル管理とは、データを増やすことではない

デジタル化という言葉は、しばしば「紙の情報をデータに置き換えること」として理解される。紙の台帳をExcelに入力し、写真をデータとして保存する。こうした作業は、確かに必要な第一歩である。

しかし、それだけでは管理の質は大きく変わらない。

台帳がExcelになっていても、必要な情報にすぐにたどり着けなければ、紙の台帳と本質的な違いは小さい。写真がデータとして保存されていても、どの資料に対応するものかが分からなければ、確認には時間がかかる。むしろデータの量が増えることで、探しにくくなることさえある。

文化庁の「出土品の取扱いについて(報告)」でも、出土品の保管・管理の改善方策として、単に保有するだけでなく、状態や活用可能性に応じた効率的な管理の必要性が示されている。ここで求められているのは、情報を持つことそのものではなく、必要な情報を管理に使える状態にすることである。

デジタル管理とは、データを増やすことではない。
必要な情報に、必要なときにたどり着ける状態をつくることである。

台帳・写真・所在がバラバラであることの問題

現場でよく見られるのは、情報そのものは存在しているが、それぞれが結びついていない状態である。

台帳はExcelで整備されている。
写真はフォルダに保存されている。
収蔵庫には資料が箱に収められている。

一見すると、管理は行われているように見える。
しかし、それぞれが独立して存在しているだけでは、実務上の使い勝手は大きく改善されない。

ある資料について確認しようとした場合、まず台帳を開き、該当する項目を探す。次に写真の保存場所を確認し、フォルダを開いて該当する画像を探す。さらに現物を確認する場合には、収蔵庫内で箱や棚の位置を探さなければならない。

この流れがスムーズに進まなければ、確認作業には時間がかかる。
場合によっては、途中で情報がつながらず、確認自体が困難になることもある。

ここで問題なのは、情報がないことではない。情報はある。しかし、台帳、写真、所在が別々に存在しているため、必要なときにひと続きで使えないのである。デジタル管理がうまく機能しない現場の多くは、情報不足ではなく、情報の分断を抱えている。

「一体で管理する」とはどういう状態か

では、「台帳・写真・所在を一体で管理する」とは、どのような状態を指すのだろうか。

それは、ある資料や箱を起点にしたときに、関連する情報へ連続してたどり着ける状態である。

たとえば、収蔵庫の中の一つの箱を見たとき、その箱に対応する台帳の情報がすぐに確認できる。その台帳から関連する写真にアクセスできる。さらに、その箱がどこに置かれているかも明確に分かる。

逆に、台帳の情報からも、その資料がどの箱に収められているのかを追うことができる。写真からも、どの資料で、どの箱に対応しているのかが分かる。

このように、台帳、写真、所在が相互に結びつき、どの情報を起点にしても他の情報にたどり着ける状態が、「一体で管理されている」状態である。

重要なのは、どこから確認を始めても迷わないことである。
文化財の管理において必要なのは、情報をたくさん持つことではなく、情報同士の関係が見えることである。台帳だけ、写真だけ、所在だけでは足りない。それらが一つの流れとしてつながってはじめて、実務に使える管理になる。

デジタル管理が機能しない現場で何が起きているか

デジタル管理の仕組みを導入したにもかかわらず、現場で十分に活用されていないケースも少なくない。

入力が追いつかず、データが更新されないままになる。
操作が複雑で、特定の担当者しか使えない。
現場の作業と連動しておらず、記録の更新が後回しになる。

こうした状況が続くと、次第にシステムは使われなくなり、紙や個人の記録に頼る場面が増えていく。結果として、せっかく導入した仕組みも、実際の管理とは切り離されたものになりやすい。

文化庁の資料でも、情報の整備そのものだけでなく、それを継続的に運用できる体制の必要性が示されている。導入時に整っていても、更新されなければ、管理はすぐに実態から乖離する。

デジタル管理が機能しない原因は、技術の不足ではないことが多い。
多くの場合は、現場の業務と仕組みがかみ合っていないことにある。

現場で続けられるデジタル管理の条件

現場で継続できるデジタル管理には、いくつかの条件がある。

まず、日常の作業の中で無理なく更新できることである。特別な作業としてではなく、通常の整理や確認の流れの中で記録が更新される仕組みでなければ、長続きしない。

次に、操作がシンプルであることが重要である。複雑な入力や手順を必要とする仕組みは、使う人を限定してしまう。誰が扱っても同じように使えることが、継続性につながる。

さらに、管理単位を現場に合わせることも欠かせない。出土品の管理では、個々の遺物単位での完全な把握を最初から目指すよりも、箱単位で所在と内容、関連データを把握するところから始める方が現実的であることが多い。箱単位で何がどこにあるかが見えるだけでも、所在管理と保管管理の精度は大きく変わる。

豪華なシステムを導入することよりも、更新できる仕組みをつくること。
それが、現場で機能するデジタル管理の前提である。

整備は一度に全部やらなくていい

デジタル管理の整備は、大規模なプロジェクトとして構想されることが多い。しかし、実際の現場では、一度にすべてを整えようとすると途中で手が止まりやすい。

重要なのは、無理なく進められる単位で着手することである。
特定の収蔵庫や資料群に対象を絞り、管理単位を決めて、そこから整えていく。

たとえば、箱単位で所在と台帳の対応関係を整理するところから始める。そこに写真との紐づけを加え、徐々に情報の精度を高めていく。

小さな単位であっても、台帳、写真、所在が結びついた状態ができれば、それは確実な前進である。そこを基点として範囲を広げていくことで、無理なく全体の管理を整えていくことができる。

アーケストレージでは、台帳・写真・所在を一つのシステムで結びつけて管理できる仕組みを提供している。どの箱がどこにあり、何が入っていて、関連する写真や台帳情報にすぐたどり着ける状態をつくることを、導入支援から運用まで一体で対応している。現場の状況に応じて、どこから整備を始めるべきかといった相談から受け付けている。

デジタル管理とは、情報をつなぐことである

デジタル管理というと、新しい技術やシステムの導入に意識が向きがちである。
しかし、その本質はそこにはない。

台帳、写真、所在といった情報が、それぞれ独立して存在しているだけでは、管理としては不十分である。
それらを結びつけ、どこからでもたどれる状態をつくることが重要である。

この状態が整ってはじめて、確認、整理、活用といった業務が円滑に進む。
そして、その状態が日常的に維持されることが、管理の質を支える。

デジタル管理とは、データを増やすことではなく、情報をつなぐことである。
そのつながりを現場で維持し続けることこそが、最も重要な要素である。

参考資料

文化庁「出土品の取扱いについて(報告)〈概要版〉
文化庁「出土品の取扱いについて(報告)
文化庁「埋蔵文化財保護行政の現状と課題
文化庁「埋蔵文化財関係統計資料(令和6年度)
文化庁「博物館の収集方針に関する調査研究