静かなる社会問題の収蔵庫不足
NHK「クローズアップ現代」(2025年5月19日放送「博物館はもう満杯…廃棄?保存?」)が収蔵庫不足を取り上げて以来、「場所が足りない」という議論が広がっている。実態として間違いではない。ただ、現場で起きていることはもう少し複雑だ。
収蔵庫に足を踏み入れると、棚には箱が並び、一見整然としている。問題は、その箱を開けたときに起きる。紙台帳には番号が振られている。遺物にも番号がある。ところが、両者が一致しない。どの台帳がどの遺物に対応しているか、追えない状態になっている。
これは特殊な事例ではない。全国の埋蔵文化財保管現場で、ごく普通に起きていることだ。
台帳と遺物が対応できない、という現実
多くの機関では、台帳は紙で作られているか、担当者が表計算ソフトに入力したデータとして存在している。ギリギリデジタルと呼べる状態だ。
紙台帳は調査ごとに作られ、年代もフォーマットも担当者もばらばらだ。表計算データは、作った本人にとっては機能していても、引き継いだ側が同じように使えるとは限らない。列の定義が暗黙知になっていたり、入力ルールが文書化されていなかったりする。
結果として、「台帳は存在するが、どの遺物に対応しているか確認できない」という状態が生まれる。物は残っている。記録も残っている。しかし両者をつなぐ糸が切れている。
データ化しても、つながっていなければ意味がない
「デジタル化すれば解決する」という話になりやすい。しかし問題の本質はそこではない。
台帳をExcelに入力し直しても、実物との突合が取れていなければ状況は変わらない。「データ上は存在するが、現物が確認できない」という事態は、デジタル化した後でも起きる。形式が変わっただけで、台帳と遺物の対応関係が切れたままになるからだ。
必要なのはシステムではなく、「台帳と遺物と保管場所が三点セットで追える状態」を作ることだ。これがなければ、どれだけ記録が積み上がっても管理とは言えない。
担当者が長く在籍することが、リスクになる
文化財担当者は、一般行政職のように数年で異動しないケースが多い。専門性の蓄積という意味では本来強みだが、同時に「その人がいなければ何もわからない」という構造を作り上げる。
台帳と遺物の対応関係が頭の中にある状態で10年、20年と管理が続く。文書化されないまま、個人の記憶が組織の管理を代替している。退職の日まで問題は表面化せず、後任が初めて収蔵庫を開けたときに露わになる。
これは担当者個人の問題ではない。管理を仕組みとして設計してこなかった、組織の構造問題だ。
「いつか整理する」が来ない構造的な理由
整理しようとしても、何から手をつけるかわからない。台帳の統一フォーマットも、遺物との紐付け方法も、「誰かに教わった」ことがない。前任者のやり方を踏襲するだけで、問題の先送りが続く。
そもそも、埋蔵文化財の保管管理を専門に扱う民間事業者が、国内にほぼ存在しない。単なる倉庫業者でも博物館コンサルでもない、「管理の設計ごと引き受けられる」相手が見つからないから、手が止まったままになる。
収蔵庫を広げる前に、やるべきことがある
場所を増やしても、台帳と遺物の対応が取れていなければ、問題は広い空間に散らばるだけだ。新しい収蔵庫への移送も、何がどこにあるか把握できていなければ正確にできない。
「収蔵庫不足」は解決すべき問題だ。ただそれと並行して、「今ある資料が、誰が担当になっても同じように管理できる状態になっているか」を問い直す必要がある。場所の問題と管理の問題は、別々に対処しなければどちらも解決しない。
相談できる場所が、ようやくできた
アーケストレージ株式会社は、埋蔵文化財の保管・管理に特化した、国内でも数少ない民間事業者だ。代表は文化財保護団体での実務経験を持ち、業界の構造と現場の課題を知った上でこの事業を立ち上げた。経済産業省のDX認定も取得している。
「倉庫業者に頼むのとは違う、でもどこに相談すればいいかわからない」——そういう状態が続いていたなら、まず話してほしい。台帳と現物の突合、箱単位での所在整理、写真と台帳の紐付け、保管場所移転前の現状整理、引継ぎ資料の作成など、管理の実務に直接入る形で対応している。現地でのヒアリングにも、資料をお預かりしてからの管理設計にも対応できる。
「どこから手をつければよいかわからない」という段階で構わない。初回相談では現在の状況を伺い、整理の進め方と優先順位を一緒に確認する。費用や契約の話を最初にする必要はない。
文化財の保管・管理に関するご相談は、下記よりお問い合わせください。
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